今日の租判で扱われた
東京地判平成22年10月13日訟月57巻2号549頁は大変興味深い事案でした。
原告日本法人は
Indy Racing Leagueに参戦し、スポンサー企業と年間スポンサー契約を締結してスポンサー料を得ました。このスポンサー料について日本の消費税が課せられるかという問題です。
2003・2004年のカーレースは全16戦中、うち15戦がアメリカ開催、1戦のみ日本開催
2005年のカーレースは全17戦中、うち16戦がアメリカ開催、1戦のみ日本開催
こういう事実関係の下で、役務提供地は日本にあり日本の消費税法が適用される、とした裁判例です。これだけしか書かないと、何てひどい判決なんだ、という気がしてくることでしょう。
しかし、
少なくとも法令の解釈としては、仕方ないだろうなあという事案です。
消費税が課せられるのは「資産の譲渡等」のうち日本で行われたものであります。
そして「資産の譲渡等」とは「資産の譲渡」「資産の貸付け」「役務の提供」を指すところ、役務の提供が日本で行なわれたか否かについて次のように規定されています。
消費税法4条 国内において事業者が行つた資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する。
2 保税地域から引き取られる外国貨物には、この法律により、消費税を課する。
3 資産の譲渡等が国内において行われたかどうかの判定は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める場所が国内にあるかどうかにより行うものとする。
一 資産の譲渡又は貸付けである場合 当該譲渡又は貸付けが行われる時において当該資産が所在していた場所
(当該資産が船舶、航空機、鉱業権、特許権、著作権、国債証券、株券その他の政令で定めるものである場合には、政令で定める場所)
二 役務の提供である場合 当該役務の提供が行われた場所(当該役務の提供が運輸、通信
その他国内及び国内以外の地域にわたつて行われるものである場合その他の政令で定めるものである場合には、
政令で定める場所)
[4項以下略]
消費税法施行令6条
[1項略…資産の譲渡、資産の貸付けの場所の判定基準]
2 法第四条第三項第二号に規定する
政令で定める役務の提供は、次の各号に掲げる役務の提供とし、同項第二号に規定する
政令で定める場所は、当該役務の提供の区分に応じ当該役務の提供が行われる際における当該各号に定める場所とする。
一 国内及び国内以外の地域にわたつて行われる旅客又は貨物の輸送 当該旅客又は貨物の出発地若しくは発送地又は到着地
二 国内及び国内以外の地域にわたつて行われる通信 発信地又は受信地
三 国内及び国内以外の地域にわたつて行われる郵便又は信書便
(民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第二項 (定義)に規定する信書便をいう。第十七条第二項第五号において同じ。) 差出地又は配達地
四 保険 保険に係る事業を営む者
(保険の契約の締結の代理をする者を除く。)の保険の契約の締結に係る事務所等の所在地
五 情報の提供又は設計 情報の提供又は設計を行う者の情報の提供又は設計に係る事務所等の所在地
六 専門的な科学技術に関する知識を必要とする調査、企画、立案、助言、監督又は検査に係る役務の提供で次に掲げるもの(以下この号において「生産設備等」という。)の建設又は製造に関するもの 当該生産設備等の建設又は製造に必要な資材の大部分が調達される場所
イ 建物(その附属設備を含む。)又は構築物(ロに掲げるものを除く。)
ロ 鉱工業生産施設、発電及び送電施設、鉄道、道路、港湾設備その他の運輸施設又は漁業生産施設
ハ イ又はロに掲げるものに準ずるものとして財務省令で定めるもの
七 前各号に掲げる役務の提供以外のもので
国内及び国内以外の地域にわたつて行われる役務の提供その他の役務の提供が行われた場所が明らかでないもの 役務の提供を行う者の役務の提供に係る事務所等の所在地
[3項以下略]
消費税法4条3項2号において「当該役務の提供が行われた場所」が国内か否かで日本の消費税を課すか否かを決めるよ、と規定しています。しかし、「当該役務の提供が行われた場所」を探ればよいというのでもなく、括弧書きの中で、政令によって決めるよ、と規定しています。
消費税法施行令6条2項の1〜6号を見る限り、カーレース参戦が含まれないことは明らかですので、同7号該当性が問題となります。とりわけ、同7号「国内及び国内以外の地域にわたつて行われる役務の提供」に該当するかが問われました。
原告は、外国レース参戦部分と日本レース参戦部分とを区分して、日本レース参戦部分のスポンサー料のみが日本の消費税の課税対象となる(なお、アメリカには連邦レベルで日本の消費税に相当するもの――講学上は付加価値税value added taxと呼びます―――がありません)と主張しました。
しかし裁判所は、対価(スポンサー料)の額が外国レース参戦部分と日本レース参戦部分とに合理的に区別できないため、同7号「国内及び国内以外の地域にわたつて行われる役務の提供」に該当し、全額について日本の消費税が課される、と判断しました。
さて、法令解釈としては仕方ないということを述べましたが、
役務提供地が国内か否かという原則論に照らすとやっぱりおかしいのではないか、という疑問が生まれます。
しかし、スポンサー企業が日本法人かアメリカ法人(もしくはその他の外国法人)かで、経済的な意味合いが全く変わってくるよ、というのが本件の隠れたポイントのようです。残念ながらリンク先の判決文ではスポンサー企業の名前が隠されています。
そして、今日の研究会で解説していただいたのですが、
本件のスポンサー企業は全て日本法人であったようです。そしてスポンサー企業は本件原告に支払ったスポンサー料について仕入税額控除を主張していたということのようです。しかも、同種の事例を担当されたという方の解説によりますと、これは偶然そういう契約になったというのではなく、スポンサー企業が仕入税額控除を主張することができるように、念入りに仕組まれた契約の結果であるそうです。
スポンサー契約のやり方としては、一戦ずつスポンサー契約をするかしないかという方法も考えられるところ、外国レース参戦のスポンサー料については明らかに役務提供地が国外とされスポンサー企業としては仕入税額控除を主張できなくなるので、
外国レース参戦と日本レース参戦とがわざと一体になるような契約とし、スポンサー料全額についてスポンサー企業が仕入税額控除を主張することができるようにしている、という次第であるようです。判決文中で「年間スポンサー契約」という表現がある訳ではないですが、一年単位でスポンサー契約を締結していることに意味があるという訳です。
そして本件は控訴を断念し確定しているようであります。原告としても、駄目元で訴訟まで行ってみたけど負けたから諦める、という感覚でしょうか。もしも原告が勝ってしまうと、今度はスポンサー企業の側で仕入税額控除が主張できなくなる、という迷惑が掛かる可能性
(もちろん、原告に対する課税とスポンサー企業に対する課税は民事手続き上別々の問題でありますが)が生じるからか?との邪推も今日の研究会で流れておりました。
また、同種の事案の別件で国税不服審判所平成22年7月20日裁決というのがあるそうなのですが(残念ながら
ここにはありません。TAINSの番号は聞き漏らしてしまいました)、そちらでも基本的に本件同様に役務提供地は日本とされているようであります。しかし別件においてスポンサー企業のうちの一社はアメリカ法人であったそうで、このアメリカ法人からのスポンサー料に関しては「預かり金」(?これがどういう意味なのか掴めませんでしたが)であるということで日本の消費税は課されないということにしているようであります。
これと関連して、ドイツ法人とか英国法人とか、付加価値税が存在するけど日本の消費税との二重課税の可能性について何ら手当されていない法人がスポンサー企業だったら、どういうことになるのだろう?という疑問が研究会で提起されました(答えはなかった?)。
さて、以上の説明を読んだ後、法解釈論としてはともかく立法論として、多くの方は【役務提供地の判定基準を、現行消費税法施行令6条2項7号のようにざっくりするのではなく、精緻化すべき】と考えるのではないでしょうか。今日の研究会でもそのような議論はありました。
しかし(時間もなかったので)その場で私は議論を提起できませんでしたが、
役務提供地の判定基準を精緻化すべき、という議論に私は違和感を抱きます。そもそも、消費税(付加価値税)の課税権配分基準として理想とされる仕向地主義(destination principle)に照らし、役務提供地に課税権があると考えられることが間違いである、と考えるわけであります。かつ、役務提供地を基準とすると事実上仕向地主義ではなく原産地主義(origin principle)となってしまう、という批判はかねてからなされているところであります。
仕向地主義を理想とするのであれば、原告がどこで役務を提供したかではなく、【
顧客であるスポンサー企業が原告から提供された役務をどこで利用するか】が消費税(付加価値税)の課税権配分の判断基準となるべきである、と考えます。
では、本当に仕向地主義が消費税(付加価値税)の課税権配分基準として望ましいの?という疑問が提起されるかもしれませんが、伝統的な経済学説は仕向地主義を推奨してきましたし、(仕向地主義でも原産地主義でも競争条件への歪みは為替調整により生じないという近年の議論の成否と無関係に)昨今の企業誘致合戦及び租税競争を踏まえると、企業誘致合戦の影響をあまり受けないであろう仕向地主義の方が望ましいと私は修士論文以来考えております。